かすかに息があるから死んではいないだろう──それよりも、マルティナの胸に手を当てる。上下していることにほっとして、しかし、不規則なそれにぞっとした。

「ヴぃ、おら、さま」
「しゃべるな!マルティナ!」
「お願い、シャルロットさま、を……くろ、ヴぃすが、」
「わかったから!だからしゃべるな!」
「ごめ、ん、なさい……まもれ、な、」

 マルティナが、血の混じった涙を流して、か細い声で、綴っていく言葉。それがどんな意味を持つのか、わからないほど愚鈍ではなかった。

「ヴィル、マルティナ・マルティーズを医務室へ連れていく。アンナ、クロエ。聞こえたな、医師の手配を」
 
 ヴィルヘルムを前にして、こぶしを握り締めながら、アルブレヒトが固い声で命じる。
 白くなった手からは、血が滴っていた。

「アガーテ、アデーレ。お前たちには心得があったな。応急手当を。──死なせるな」

 冷静を装って采配を下すアルブレヒトの目はしかし、瞳孔が開き、光を反射させ、周囲の状況を判断すべく動かし、けれど冷静にはなり切れずにその色を濃くする。

「シャロは、ティーゼの屋敷か」
「アル、マルティナは!今は!」
「別邸……ティーゼの、領地の、森の、どこか」
「マルティナ……?」