人通りのないその回廊は、常ならば頻繁に誰かが通る場所だった。けれど、王城の人間はみな次期王の戴冠に付随する処理に追われており、ぼろ布のように倒れるマルティナ・マルティーズ・ティーゼが見つかったのは、食事にこないシャルロットをいぶかしんだ料理人や給仕が、そのことを上に伝えたのち、アルブレヒトとヴィルヘルムがシャルロットの部屋に向かう途中のこと──すなわち、シャルロットが連れ去られてから半刻が過ぎたころだった。

「き──さま──!」

 血だまりの中に浮かぶ金が見えた瞬間、ヴィルヘルムは激高した。
 こちらに興味を示さぬ男たちにとびかかる。
 抵抗のないマルティナを殴り続ける男の腕をねじり、ヴィルヘルムはそのままもう一人の男にぶつけて倒した後、佩いたレイピアを上に乗った男の肩口に、縫い留めるように差し込んだ。

 悲鳴すら上げない、不気味な男たちは、べろりと舌を出す。噛もうとした、その瞬間に、ヴィルヘルムは頭を蹴り飛ばして気絶させた。