とたん、かんしゃくを起こしたように金髪をぐしゃぐしゃに振り乱すクロヴィスが、シャルロットを取り落とした。
「お前が──お前が!犬に!すでに!その栄誉を!誉れを!──僕が得ていないものをなぜおまえが!」
マルティナの機転に、シャルロットはクロヴィスの足元から走り出そうとし──けれど、その背を思い切り蹴飛ばされる。
「──ッ!」
声なき悲鳴がほとばしる。それを意にも返さず、動けないシャルロットを再び抱き上げたクロヴィスは、息を荒げて言った。
シャルロットは痛みに気を失いそうになりながら、その言葉を聞く。
「ゆる、ゆるさない、ぞ、やはり、じゃあ、やはり、この国は、くそったれだ、マルティナ、ま、まずはお前を、殺してやる」
クロヴィスは、片足を持ち上げる。その下には、マルティナの、青紫の右手があって、まさか。
「お、おまえ、あの王太子に、右手を、つぶされたんだってな、な、なら、まずはここから、壊してやるよォ!」
「──やめて!」
ぐちゃりと、嫌な音がした。
肉がつぶれ、骨が砕ける音──マルティナの悲鳴は聞こえない。
苦し気に眉をゆがめるだけのマルティナに、だがその一瞬で唐突に飽きたのか、クロヴィスはなあんだ。とつぶやく。
「楽器にもならない。つまらない女!」
許せない──怒りとは、これか。こういうことか。
シャルロットは、クロヴィスを振りきろうと拘束された手に力を籠める。びくともしない腕を、それでも動かさんと。