すいと指をさす。顔がただれ、目が映ろな男をせせら笑ってクロヴィスは言った。
「それ、失敗作。やっぱりだめだねえ、加工品は。愛犬は、きちんと、天然ものじゃないと。それでも結構、いいや、19年か。持ったほうだけどさ」
シャルロットのつむじに頬ずりして、クロヴィスは言った。
加工品──天然もの。この上ない侮辱、その中に、忌まわしい響きを感じ──意味を悟ったシャルロットはう、と胃から何かせりあがるのを感じた。同じことに気づいたのだろう、マルティナはカッと目を見開いた。
──加工品と呼ばれた男の手から、赤に染まった手袋を脱ぎ捨てるように右の手を抜き去り、瞬間、床を蹴って跳躍した。
レイピアをクロヴィスの眉間に突き立てんと突進したマルティナの切っ先は、しかし、ずぐんという、肉を切るような感覚に阻まれる。
「犬は一匹じゃないんだってば。ああ、言ってなかったね。ごめんごめん」
刺し貫いた肉塊はこちらを振り返る。腕にレイピアが貫通したというのに、表情一つ変えぬその「ひと」は、そのままひっくりかえすようにして、マルティナを地面に押さえつけた。
「不細工で、馬鹿で、筋肉だけが取り柄の愚妹……かわいくもないマルティナ、どうだい?偉大なお兄さまの犬になってみる?」
「……お断りだわ。クロヴィス・ティーゼ。それに、もうわたくしにはマルティーズという名前があるの。あなたの犬に、なると思って?」
「なん、だと──」