マルティナの、緑の目に映った自分が目に入る。やつれたおもては白く、病的なまでに青白く──生気のない自分の顔に、もう、言い返す気力すらないことに気づいた。
国にかかわらなかった王は、死んだあとに、少したってから、はじめて大勢の心を揺らした。
王妃は部屋に閉じこもり、在りし日の王のようになった。
アルブレヒトは執務に明けから暮れまで拘束され、ヴィルヘルムも缶詰で、臣下は右往左往し、それをまとめるためにまた時間をついやす。
そしてシャルロットは、見たことのないはずの王を、どうしてもアルブレヒトに重ねてしまい、心臓の下、腹の上のあたりがカッと熱くなり、痛みを覚えてしまうのだ。
誰もかれもが沈んでいる。置き土産というには、王の遺したそれは重すぎた。
「……そうね、久しぶりに、アルブレヒトさまにお会いしたいわ」
「それでは、参りましょう、シャルロットさ、ま……ッ!」
ぴたり、と。マルティナが、シャルロットを守るように素早く前に出る。
「シャルロット様、わたくしから離れないで。ゆっくり、こちらにいらして」
腰に佩いたレイピアを抜き放ち、マルティナが鋭く言った。
シャルロットが息をのみ、慎重に歩を進め──そうして、陰から這い出るように現れた一人の男を見て、足を止め、た。
「あ──」
声が引きつれた。シャルロットは動けなかった。その顔、その顔を覚えていた。
19年前──白銀のナイフ。特徴のない顔の男。
震える足が、動いてくれない。背筋を焼けつくような痛みが走る──。
シャルロット様!マルティナが叫ぶ。その一瞬をつかれた。