「王太子殿下、即位の準備を──」
「国が乱れます、何とぞ……」

 アルブレヒトが、議会の大臣たちに懇願されている。
 葬儀中に不謹慎な。顔をゆがめた参列者らが言う。
 けれど、もともとなんの仕事もしていなかった王だ。臣下らは、もう王を見限っていたのだろう。

 だからこんな簡略化した葬儀で、国庫からの支出を抑えようとしているのだ。
 静かに涙を流す王妃を、後ろから見つめる。毅然と立つ王妃の背中は、恋が苦しいものだと口にしたあの日よりずっと小さく見えたのだった。

「わすれないで……」

 ふいに、王妃がつぶやいた。小さな小さな声が、かすれて音階をたどっていく。

「わすれないで……おぼえていて……」

 歌う王妃の姿は、もう誰も見ていない。
 だけど、シャルロットはずっと忘れない。ひとつの恋の、終わり──。
 あまりにも悲しくて、シャルロットの手が伸ばせないものがあるということを。

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