「踊りましょう、アルブレヒトさま」
「もちろん、シャロ」

 白いドレスをシャンデリアにきらめかせる。存在そのものが愛くるしいシャルロットに誘われて、応えない男はいないだろう。そう確信できるほど、シャルロットが愛しい。

 手を取って、大広間の中心に移動した麗しい婚約者を阻むものはいない。

 くるりくるりとシャルロットが回るたびに真珠がキラキラと輝いて、夢のような光景だった。
 アルブレヒトは愛しく思ってシャルロットを持ち上げる。まるで、四年前のあの日みたいだと思った。

「アルブレヒト、さまっ?」
「君が愛しすぎるから、仕方ない。君に触れる床にすら嫉妬する僕を許しておくれ」
「も、もうっ!」

 仲睦まじい次世代の国王夫妻は、現王のベルクフリートごもりという不穏な噂を、忘れ去れる程に、希望に満ちているように、貴族たちには見えていたらしい。
 口の軽くなった貴族の声を、ヴィルヘルムとマルティナが拾った。
 それとなく近づき、にこやかに話しかける。

「それにしても、やはりシードルは最高だ!なんだったか、わいんとかいう、葡萄の酒。渋くて舌がしびれたよ」
「ごきげんよう、エインフント伯爵。楽しんでいらして?」
「それは王領の特産品だね。シードルは僕も大好きだ」
「ああ、ヴィルヘルム様、それにティーゼ侯爵令嬢ではないですか。いやあ、先日、ワイ……なんとかという葡萄酒をもらったのですがね。なんとも苦手な味で……。そもそも葡萄を使っているというのがいけない。材料の輸入を勧められましたが、我が領の犬たちがうっかり食べてしまったらと思うと背筋が凍って、断ったばかりなのですよ」
「へえ、葡萄。それは誰からもらったんだい?」
「クロ、と名乗る行商人です。苺なんかはいい品だったのですが……若いからか、商売が下手ですな。痩せた男で、こう、前髪を長くした……」