嫌そうに顔をしかめるヴィルヘルムに、たしかにそれは、とアルブレヒトは眉間にしわを寄せた。
 この国では、それらの花はあまり好まれない。犬を殊の外愛するアインヴォルフ国民は、犬に有毒な植物にあまり興味を持たなかった。
 だからこそ、無害な薔薇の品種改良が進み、アインヴォルフ国の特産品の1つにまでなったのだが。

「量は」
「温室一杯ってところ。それでもこの国の基準からして少なくないから目につくもんだ」

 なにを企んでいるのか。シャルロットを狙うことと、花を集めることになんの関係があるのか。
 クロヴィスがなにを考えているのかますますわからない。
 だが、考えねばならないだろう。
 シャルロットに危険を近づけさせないために。

 ──ぱたん、と。音がした。
 銀の髪をゆるくシニョンに結い上げ、こげ茶の筋は下ろして、優しい緑の眼差しがこちらを甘やかに見つめている。

「アルブレヒトさま」
「シャロ」

 ふわりとアルブレヒトの腕の中に飛び込んでくるシャルロットを受け止め、アルブレヒトはその温みにほっと息を吐く。
 心地よい薔薇の香りがアルブレヒトを包んで、それがアルブレヒトを心から安堵させた。

「シャロ、きれいだ、とても」
「ありがとうございます、アルブレヒトさま」