「ええ、犬です。あなたも同じ犬の一族なら、きっとわかるでしょう」

 マルティナは、そう言ってこうべを垂れる。
 待っているのだ。シャルロットはそれが誰よりよくわかった。
 そうか、犬──そういえば、誰もかれも、最初は犬だった。犬は家族で、友で──愛犬とはまた別の、心から信頼できる存在を、父は、母は、兄は、姉たちは──この国の、最初の王は、犬と呼んだのだった。

「犬だもの、ね」

 シャルロットは思い出して目を細める。
 なんだかとてもおかしかった。

「そうね──わたし達、アインヴォルフの人間は、みんな濃くとも薄くとも「子犬姫」の血を引いているのだわ」

 よくわかるわ、シャルロットは晴れやかに笑った。
 膝をついて、立ち上がる。もう、震えはなかった。

「マルティナ・ティーゼ。あなたをわたしの「犬」にします。マルティーズ。あなたは、これより、マルティナ・マルティーズ・ティーゼ。わたしの犬──わたしの騎士。わたしの、親友」
「──は。拝命いたします。わたくしの主人、わたくしの姫君。わたくし──マルティナ・マルティーズ・ティーゼの、この世で一番愛すべき、友よ」

 シャルロットの手の甲へ唇を寄せ、心から喜ばしそうに、顔を上げたマルティナは、シャルロットを見つめる。
 苛烈な緑は、最初から。けしてシャルロットを憎んでいたわけではないのだと、シャルロットは今この時、たしかに理解したのだった。