アルブレヒトは、さく、と一歩木に近づく。ちょうど犬舎の裏口だった。アルブレヒトに気づいたのか、それまで彼女をいじめていた子犬や、犬舎にいた子犬たちが、裏口だというのに押し合いへし合いして犬舎の柵をくぐり、尻尾を振って近寄ってくる。
だがそれには一瞥もくれずに、アルブレヒトは今目にしている泥だらけの子犬をそっと持ち上げ、胸に抱いた。

「殿下、汚れますよ」

 アルブレヒトの行動を、犬を大切にする王族としての行動ととったのか、育成師は手を差し出した。

「そいつは外の野良犬が父親でしてね、まああまり血統が良くないというか……。王子殿下にはふさわしくない雑種ですよ」
「彼女は」
「……は?」
「彼女は、必要とされていないのか」

 アルブレヒトが彼女といった対象を図りかねたのだろう。育成師は呆けた顔をして、「まあ、そうですね」とすこし顔をひきつらせた。
犬を大切にする国柄ゆえに地位の高い育成師にとって、まだ立太子もされていない王子一人など、軽んじてもいいと思っているのか。

 けれど、同じく犬の育成師として、建前を考えた結果の顔だったのかもしれない。だが、もうそんなことはどうでもよかった。

「彼女だ」
「……?その犬が、ですか」

 育成師の育てたとは言えない子犬を選んだアルブレヒトに対し、育成師は不満げな声をあげた。

「そんな犬より、こちらの血統の優れた……」
「くどい」