扉の向こうから、声が聞こえた。
 振り返ると、豪奢な金髪が視界に入る。
 クロエやアガーテ。アデーレたちに囲まれるようにして、マルティナ・ティーゼが入ってくるのが見えて。
 思わず身構えるシャルロットの前に、金髪がふわりと舞った。

「マルティナ・ティーゼ?」
「力が足りないのであれば、わたくしの力をお使いください。シャルロット・シャロ・ヒュントヘン。命をお返しすると申しました。わたくしの身を、あなたの手足として、あなたをお守りください」

 マルティナが言う。シャルロットを見つめる目は、シャルロットより濃い色をしている。苛烈な眼差し──しかし、それは、シャルロットをねめつけているわけではない。

 跪き、手を胸に当て、請い願うような響きでシャルロットに提案しているマルティナに、シャルロットは尋ねた。

「どうして、あなたがわたしを守ろうと言うの?あんなことを言ったのに」

 わたしも、あなたも。だから両成敗だと思ったのに。
 うろたえたシャルロットに、マルティナはとんでもないことを言う。

「あなたを愛しているからです。シャルロット・シャロ・ヒュントヘン」

 マルティナは言った。シャルロットが瞠目すると、マルティナはふっと微笑んだ。

「敬愛しています。シャルロット・シャロ・ヒュントヘン。あなたを心より尊敬している──わたくしは、あなたを守る「犬」になりたい」
「犬?」