「わたしにしかできないこと……」
「おひいさま、おひいさまが王城に来てくださる前、アルブレヒトさまが、王宮でなんと言われていたかご存知ですか?」
「氷の、王太子?」

 その硬質な美貌を表して、誰かがつけた呼び名だ。
 シャルロットを見つめるアンナは、頷いて、しかし、口ではいいえと否定した。

「氷と言うのは容貌のことではありません。心が凍っておられると……人の心がないのだと、そういう悪意の込められた言葉でした。シャルロットさまが、変えてくださったのですよ」

 驚いてエメラルドグリーンの目を見張るシャルロットに、アンナは続けた。

「おひいさまが来てくださってから、アルブレヒト様は変わられました。食事もきちんと取るようになり、貼り付けたような顔で話すこともなくなりました」

 アルブレヒト様は気づいておられないでしょう、とアンナは言う。

「おひいさまが来られた当初、アルブレヒト様の執着は異常でした。私共は、アルブレヒト様からおひいさまを守らねばと必死でした。時が来れば逃がさねば。おひいはまが儚くなってしまう前にと。……けれど、おひいさまは、アルブレヒト様と一緒にいてくださった」
「アルブレヒトさまと一緒に居たかったからいたのよ、たったそれだけ……」
「それだけのことが、アルブレヒトさまの心をお救いになったのです」