「わたしは、何の力もないのね」
「おひいさま……」

 アルブレヒトの出て行った扉を見つめながら、シャルロットはぽつりと呟いた。

「わたし、アルブレヒトさまに、何ができていたのかしら」

 泣くことはできない。
 胸の中の何かが枯れたのを感じていた。
 ふと、窓際に飾られた花瓶を見る。咲き誇る白い薔薇──ヒュントヘン公爵家の庭師が作った「シャルロット」。薔薇のシャルロットは綺麗で、けれど現実のシャルロットは、アルブレヒトのように、シャルロット自身を守ることもできない。

 身を投げ打つことしか知らなかったシャルロットが、何をすればいいのだろう。
 学べばいいのか。勉強は得意だ。だが、そういうものではないと、シャルロットが誰より理解していた。

「おひいさま、腕力だけが、アルブレヒト様を守るものではありませんよ」
「アンナ……?」
「おひいさまが生きて、アルブレヒトさまから逃げず、隣にいてくださった……。おひいさまは、アルブレヒトさまの心を、お守りになってくださったのです」
「……こじつけだわ」
「いいえ、いいえ。おひいさまは、おひいさまにしかできない方法で、アルブレヒトさまを守ってくださった……おひいさま以外の誰にもできなかったことです」

 寂しそうに微笑むアンナの声が優しく響く。
 シャルロットは、触れたままの手を滑らせ、アンナの手を握った。
 ふっくらした手は、それでもシャルロットよりずっと長く生きているからか、少しだけかさかさしている。