思えば、その時言っていたことも、いい加減な思い込みのようなことだった。
 マルティナの中にあったのは、少しの嫉妬と、シャルロットへの想いだ。
 ますますクロヴィスが何を知り、何を知らず、何を考えているのかがわからなぬなる。

「クロヴィス・ティーゼの周辺を探れ。ヴィル。何か奴に吹き込んでいるものがいるはずだ」
「は。……当然です。アルブレヒト様。俺も、怒ってるんだ」

 ヴィルヘルムの歯がぎち、と鳴る。

「可愛い妹と、親友に手を出したこと、後悔させてくれる」

 ヴィルヘルムが礼をし、その一瞬ののちに視線が合う。すぐに踵を返したヴィルの目はいくらも見えなかったが、その目が熱した鉄のように苛烈に輝いていたのはわかる。

 アルブレヒトは、先程呆然と自身を見つめていたシャルロットを想った。
 シャルロットのせいではない。シャルロットは悪くない──それでも、アルブレヒトは、シャルロットにこそ燃えるような怒りを抱いた。

 ──君が死んだら、この世に僕はいない。

 シャルロットが死ねば、アルブレヒトはもう一度抜け殻になるだけでは済まないだろう。
 シャロを失って身につけていたシャロの遺骨──今は墓の下に眠らせているそれを、増やすということ──シャルロットが飛び出してきた時、それを想像して背筋が震えた。
 比喩でもなんでもなく、この愛しい少女がいなくなれば、自分は死ぬと思った。

「逃せない、離さない……そうじゃなかったんだ」

 もう二度と失わぬために、シャルロットただひとりを守る檻を作った。
 きっと、再び目の前に現れたシャルロットに、すがりついていたのはアルブレヒトの方だったのだ。