「あの衛兵の偽物は」
「自害した。……悪い」
「いいや、かまわない。誰が差し向けたかはわかっている」

 マルティナとの会話は非常に有益だった。
 クロヴィス・ティーゼは愚かな人間だ。
 それなのに、重要なところばかりに水を差す。

 4年前のパーティーでアルブレヒトに声をかけてきたクロヴィスは、痩せ衰えたハイエナのような顔でにたにたと笑っていた。豪奢な金髪が浮いていて、ひょろりとした体躯すら不気味だった。

 ──アルブレヒト殿下、シャルロット嬢は、まるで子犬ですねえ。さすがはヒュントヘンの子犬姫です。
 ──ああ……いいえ、別に何も…、ただ、うちのマルティナの嫉妬に満ちた目を見ると、妹が可哀想になるほどの「姫君」だなと。

 何を言いたいのかわからなかった。
 クロヴィスはアルブレヒトやヴィルヘルムと同じ年に学園に入学した同輩だが、遠巻きにこちらを眺めてニヤついているだけで話しかけてこようともしない、奇妙な人物だった。

 ただ、騎士団長の息子だからすぐに会話を切ることもできない、どうしたものかと悩んでいたときに、マルティナのあの平手打ちが響いて──そこからは、クロヴィスと話していない。