アルブレヒトは叫び、そうして、シャルロットを両手でかき抱いた。
 アルブレヒトの血が、シャルロットの白い肌を汚す。べっとりついた赤い花から、命の匂いがした。

「わたし、は、」

 シャルロットは、アルブレヒトの奥底を見たくて、ぎゅっと眉根を寄せた。

「わたしは、アルブレヒトさまを守りたかった!アルブレヒトさまが死ぬなんて嫌だから──!」
「君が死んだら、君はこの世にもういないんだ!!」

 アルブレヒトが言う。そんなの、当たり前のことだった。それでもアルブレヒトが生きているならば、シャルロットは笑って逝ける。
 シャロだってそうだったんだから。

「君が死んだら、もう、シャルロット・シャロはいない──」

 アルブレヒトは、シャルロットの名前を告げる。
 灼けるような雫が、シャルロットの頬に落ちた。

「──それがわかっていて、君は、僕に何度絶望を叩きつければ気がすむんだ!」

 シャルロットは呼吸を止めた。
 怖かったのではない、悲しかったのでもない。
 アルブレヒトの死を想像したのだ。

 アルブレヒトの死んだ世界に色はなく、未来もなく、そしてそこに、もはやシャルロットはいなかった。
 シャルロットの形をしたなにか、得体の知れないものがあるだけで──そんなものに、シャルロットは──いいや、シャルロットは、アルブレヒトをそうしようとしたのか。まさか。

 先ほどとは違う意味の震えが湧き起こる。
 アルブレヒトが死ぬ──絶望よりなお暗い、どす黒い感情。それを、アルブレヒトはすでに味わったのだ。
 ──シャロが死んだ、あの日に。

 ずるずるとへたり込んだシャルロットから、アルブレヒトは顔を背けた。