だからきっと、アルブレヒトは怒っているのだ。

 無能で愚かなシャルロットは、シャロとして死んだ瞬間から何も変わっていない──いいや、守って死ねた昔の方がきっとましだった。

「アルブレヒトさま、ごめんなさい、ごめんなさい──……!」

 半狂乱で暴れるシャルロットの爪が、アルブレヒトの頬に食い込み、赤い筋を増やしていく。
 それにまた悲鳴をあげたシャルロットを、アルブレヒトはしかし、けして離しやしなかった。

「シャロ、お聞き」
「ある、ああ、いいえ、はい、あ、」

 シャルロットの顎が掬い上げられる。強制的に絡んだ視線と、嫌でも増した、むせかえるような血の匂い。
 そのどれもがシャルロットを打ちのめして、けれど、アルブレヒトはけしてシャルロットから目を逸らさず、シャルロットを燃えるようなまなざしで責めた。

 アルブレヒトが怒るところを、初めて見た。
 氷みたいな声なのに、炎のような感情をぶつけられて体がこわばる。
 シャルロットは、自分の無能さに喉をひきつらせた。

「僕は、今、生きてきた中で、最も、腹が立っている」
「わ、わたしが、役に立たなかったから」
「──違う!」

 窓が震えるほどの怒声がシャルロットに降りかかる。アルブレヒトの爛々と輝いた瞳が痛々しくシャルロットを串刺しにした。
 がたがたと震えるシャルロットに、アルブレヒトが怒りに満ち満ちた、けれど、泣きそうな声を震わせて、血を吐くように告げた。

「君がッ!命を投げ捨てようとするからだ!僕のために命をかけるな!シャルロット・シャロ・ヒュントヘン!」