どの犬も同じに見える。自分は、王族としては欠陥品なのかもしれなかった。
 愛嬌を振りまく茶色の犬、こちらを見て尻尾を振る犬。なるほどよくしつけはされているらしい。

適当なところで目に付いた犬を選ぶか、そう思ったとき、ふいに、きゃん!と澄んだ高い音──否、これは悲鳴だ──が聞こえた。

 音は犬舎の外から聞こえた。アルブレヒトの足は、焦ったようにそちらへ向いていた。

「殿下?!」

 驚いたようにアルブレヒトを追いかける育成師は、アルブレヒトが音のした場所へだどりついてから、十秒ほどののちに、ようようアルブレヒトに追いついた。
 アルブレヒトの息が上がる。知らず、走っていたようだ。

 犬舎の裏手、暗い木の陰。そこに立つアルブレヒトの眼前には、木の根元に空いた穴の中、薄汚れたぼろ布らしきものが、先ほどまで犬舎の中にいた犬の数匹に転ばされていた。

「きゃん……!」

 力なく這い上がり、また転ばされて穴の中に落ちるそのぼろ布は、どうやら泥にまみれた子犬らしい。

けれど、アルブレヒトにはその事実などどうでもよかった。たとえ「彼女」が本当にぼろきれでしかなくたって、同じことをしただろう。
 そう、彼女。彼女は、雌の子犬だった。なぜかアルブレヒトにはそれがわかったのだ。泥にまみれたこの子犬のことを、彼女だと断じるくらいに。