ヴィルヘルムの声がする。氷ですら暖かく感じるような、きいんと冷えた声がシャルロットの頭上に落ちた。
 シャルロットが突き飛ばしたアルブレヒトはしかし、シャルロットに凶刃が届く直前、自分の腕を思い切り突き出して白銀の軌道を遮ったのだ。
 アルブレヒトの纏う黒のジェストコートが、水ではない何かに汚されて──。

「シャロ」

 アルブレヒトが、片腕の中にきつく閉じ込めたシャルロットを呼ぶ。冷たい声が、他の誰でもなく、シャルロットに向けられていた。
 それに返事をするために開けた口──は、開いていた。喉が引き攣れて声が出ない──いいや、シャルロットは声を出している。

 今この部屋を満たす、狂気的な女の悲鳴、それを発していたのはシャルロットだった。

「あ、る、」
「シャロ」
「いや……いやよ……あるぶれひとさま」

 後ずさることすら許されない。
 シャルロットは寒気がして歯を鳴らした。
 アルブレヒトは怪我をした──シャルロットのせいで。

 シャルロットが守れなかった。守る以前に、シャルロットを庇ったせいで、アルブレヒトにいらぬ怪我を負わせた。血を流させた。