ぐるぐると胃の中を回る不快感──ふいに、アルブレヒトの足音がする。
立ち上がったシャルロットは、息ができないからアルブレヒトに抱きしめて欲しくて、ふらふらと扉へ向かった。
アルブレヒトの、黒い髪が見える。
安心して微笑んだシャルロットはしかし、その背後、衛兵の服を着た「見知らぬ誰か」が振り返り、アルブレヒトに向かって白銀にきらめくものをふりかざしたのを見た瞬間、アルブレヒトを突き飛ばしていた。
そうして、パッと鮮やかに溢れるのだ。
紅い、花びらが。
死んだ後に残るものは
鼻をつく、鉄錆の臭い。
訪れると思った痛みはなく、けれど鼻にこびりつく不快な臭いが不思議で、シャルロットはギュッと瞑った目を開いた。
ぽたり、ぽたりと、落ちていく、この花びらはなんだろうか。
信じたくない思いが強くて、シャルロットは幻覚を見ているのではないかしらと思った。
途端、空気がどっと押し寄せるように、つんざくような悲鳴がシャルロットの鼓膜を震わせる。
足音が、ばらばらと聴こえて、取り押さえろ!というだれかの怒声が続いた。
「アル、無事か!」
「かすり傷だ」