アルブレヒトとヴィルヘルムは、やはり、シャルロットに聞かれたくないことがあるのだろう。
 すぐに戻ってくると言って、どこかへ行ってしまった。
 それでよかった。今、シャルロットはアルブレヒトに話せないと思ったから。
 きっと、アルブレヒトにも怒ってしまう。

 震える手を、アンナがそっと包む。ふっくらした手は、シャルロットの冷えた指先を温めてくれた。

「おひいさま」

 そうっと、アンナが口を開いた。

「私共には、おひいさまをいじめたティーゼ侯爵令嬢はただ憎たらしい相手です。それでも、許すと決めたおひいさまは、そうしたかったのでしょう」

 許しの理由を聞かないアンナは、跪いて、座ったシャルロットと視線を合わせる。

「きっとね、わたしのためなのよ。アルブレヒトさまも、お兄さまも、マルティナ・ティーゼも。わたしのために、あそこでなにか話していたの」

 根拠はない。けれど、シャルロットは確信していた。
 あの時、シャルロットの胸に去来したのはたしかに嫉妬だった。
 だが、次の瞬間にシャルロットの胸を埋め尽くしたのは、不甲斐ない自分への嫌悪だった。

「わたしは、守ると決めたのよ。アルブレヒトさまを……守りたくて……4年前、マルティナ・ティーゼに出会って、そう、誓ったの、に」