シャルロットは、無様なマルティナを、じっと見つめていた。
 じっと、じっと──けして目をそらさず。

「ッ、謝罪を、あなたに、いいえ、命ごとあなたにお返しする。あの日、わたくしに生きる芯を与えてくれたあなたに、シャルロット・シャロ・ヒュントヘン!」

 ベシャッと、マルティナが地に伏せる。泥が顔について、不快感をもたらす。
 それでも、今この時、シャルロットの前で、最後まで礼を取りきれなかったことが、一番苦しかった。

「……アルブレヒトさま、お兄さま、侍女を呼んできてください。それと、清潔な布と、お湯を」

 答える声が何か聞こえる。
 そしてその声をきっかけに、足音が遠ざかっていく。
 這いつくばったままその音を聞いていたマルティナは、自分の目の前に差し出された白く美しい手が、最初、自分のためのものだと気づくことができなかった。

「マルティナ・ティーゼ」

 シャルロットは告げる。その緑に、マルティナを映して。

「わたしは、あなたを許すわ。……あなたがどれほど苦しんでも、わたしはあのことを気にしたりしない」

 すう、と。シャルロットは息を吸った。

「──あなたが一番苦しむことが許しなら、わたしはそれを選ぶわ」

 一拍。マルティナは、言葉を咀嚼して──そうして、絶望にも似た安堵に包まれた。

 ああ……。マルティナの目から、涙が溢れる。
 どこまでも優しくて、どこまでも強い人──あの日、あの時、憧れた、「マルティナのシャルロット」は、もうどこにもいない。