──「彼女」を目にした瞬間、どうにも苦しい渇望が沸き起こったのを感じた。
 その日、アルブレヒトは相棒の犬を選ぶ目的で、王族の相棒となるために育てられた子犬のいる犬舎へとやってきていた。

 王族の相棒を決めるというのは、この国の建国神話にのっとった一種の儀式だ。
 かつての王の相棒が犬であったことから、今の王族にも同じように犬というそばに仕える存在を選ぶしきたりがあった。

 かつては犬が王を選んだというが、形骸化して久しい今では本当かどうかわからない。ただ、父王はその伝説を信じていたのか、愛犬をことのほか大事にしていたらしい。

 母王妃への心をおざなりにしてまでいつくしみ、愛犬が死んでからはろくに政務もなさずひきこもっている父王に、アルブレヒトはあまり会ったことがなかった。

 ただ王族としての義務だとしても、犬にああやって人生すら振り回されることにはなるまいと思っていた。……母王妃が毎日恨み言を募らせるのを間近で聞いているから。

 下手すれば城下の民より豪奢な建物で、ふかふかの羽毛布団にくるまれた、よく固太りした子犬たちを冷ややかに見やって、アルブレヒトは息を吐いた。