「シャロ、」

 突然現れたシャルロットの手から、白いハンカチがびた、と音を立てて落ちた。。
 アルブレヒトのために用意したのだろう、濡れたそれを持っていたはずのシャルロットの手は赤くなっている。

「ご、めんなさい、お話中とは、思わなくて、」

 しどろもどろに謝罪を繰り返すシャルロットの目は揺れていた。動揺と悲しみがじわりじわりと溜まっていくようなゆらゆらした眼差しに、アルブレヒトはどう言えばいいのかとっさに迷ってしまった。

 ──シャルロットに言えない話をしていた。

 それはたしかだが、男女間の意味でのやましいことはしていない。
 それでもきっと、シャルロットにはマルティナとアルブレヒトが密会しているように見えたのだろう。ヴィルヘルムという見張りまで置いて。

「お邪魔、だった、いいえ、違う、いいえ、あ、れ?」

 今、シャルロットはアルブレヒトを信じようとしている。
 それに心が追いつかないのか、目を瞬いたり、唾を飲み込んだりして心の均衡を保とうとしていた。

「ティーゼ侯爵令嬢とは何もない、シャロ」
「でも、それじゃ、いいえ、どうして、ここに、お兄さまも、いいえ、違うの、アルブレヒトさま、ええと、」

 見てわかるほど狼狽したシャルロットを抱きしめて落ち着かせるのはきっと簡単だ。けれど、そうすればシャルロットを誤魔化すだけになる。
 ヴィルヘルムがシャルロットを呼ぶ──アルブレヒトが、言葉を選んで──その時。