「協力しよう、マルティナ・ティーゼ」
「は。感謝します。アルブレヒト・アインヴォルフ王太子殿下」
すらりと立ち上がったマルティナは、手袋をした右の手を、裸の左手で包むように触れた。
かつてアルブレヒトが砕いた手──シャルロットが救った、その証だと。アルブレヒトは気付く。
「アル、そろそろ」
人が来てる、と耳打ちしたヴィルヘルムに、わかった、と短く返す。
これ以降は話せない。だが、今の話を聞かれることもなかっただろう。
これからのことを考えながら、馬房の出口へと足を進め──、そうして、その先にいる人間を見て、アルブレヒトは目を見開いた。
「ごめんな、さい。アルブレヒト、さま、が、いると思って……」
銀の髪、こげ茶の一筋を風になびかせ、はりつめた、この場の空気に似つかわしくない少女が──うろたえたようにこちらを見つめていた。
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