マルティナは、まぶしそうな顔をして数秒。その景色を眺め、ややあって、口を開いた。

「兄は、シャルロット・シャロ・ヒュントヘン公爵令嬢に、接触しようと何度も手紙を書いています」
「届いていないが」
「ええ、わたしくが握りつぶしました」

 白い手袋をした右手で、なにかを握るような動作をしたマルティナは、憎々しげに言う。

「内容が腹立たしすぎて、すぐに燃やしてしまったのが悔やまれます。返事がこないのを訝しんでいるようですが、こののち、実力行使に出るでしょう」
「内容は」
「……わたくしはあれをシャルロット・シャロ・ヒュントヘン公爵令嬢に見せることなど考えたくもありません」

 唾棄すべき出来事を思い出すように、マルティナは吐き捨てた。

「要点のみでいい」
「ええ、もちろん。それを申し上げるためにお呼びしたのですから」

 マルティナは、手袋をしていない左手を握り込んだ。

「兄は、シャルロット・シャロ・ヒュントヘン公爵令嬢を、自身の愛犬にしようと──そして、時期王位の簒奪を、目論んでおります」

 ひゅっと、息を飲んだのは誰だったか。眉間にシワを寄せたヴィルヘルムかもしれない──いいや、わかっている。
他の誰でもなく、アルブレヒトが今この瞬間、誰よりも怒りに支配されていた。

 ──愛犬というものは、王族の犬の代名詞だ。
 ただの愛玩動物ではなく、ましてや通常は人を指すものでもない。