「単刀直入に申し上げます。兄には何か企みがありますわ」
「君が関わっているということは」
「否、と」
やって来たのは馬房だった。
ここが好きなのです、と連れてこられて、アルブレヒトは少々面食らった。
白馬のたてがみを梳り、マルティナが言う。
銀のたてがみと、愛くるしい目つきがどこか自分の隣にいる人物とかぶる。
馬に似ている、なんて思われたと知らぬヴィルヘルムは、話の聞ける距離を取りつつ、周囲に視線を走らせて警戒をしていた。
なるほどたしかに、馬を見に来たと言う建前もあれば、この時間にわざわざ馬房に来る人間もいない。馬房は一定に区切られているが、視線が通るので不審者がいれば分かりやすい。
騎士団員が、王城周囲の地理を知っているからこその場所選びだ。
すりすりと胸元に鼻先を擦り付けてくる馬に、マルティナは微笑む。その顔に、4年前の、どこかイライラした様子は見られなかった。
「父も、この件には関わっておりません。腹芸の苦手な脳筋ですから、何かたくらめばさすがにボロが出るでしょう」
「そうか」
脳筋と罵倒しているが、その言葉は先程の父の言葉への意趣返しだろう。
その証拠に、マルティナの表情は穏やかだ。
騎士団長が関わっていないことにほっと息をついたアルブレヒトに、けれど、とマルティナは続ける。
「兄は違います。昔から、とある側仕えを抱えていますが……その者を、あまりに重用しすぎている」
「根拠としては薄いな」
「ええ──、ですが、本題はここからです」
マルティナは、ふいに、視線を上向け た。
その視線の先を追うと、王城の一角──シャルロットの居室の窓にはためくカーテンが見える。