「い、いや、嫁の貰い手ならあると思うん……ですよ……ネ」
となりのヴィルヘルムが明後日の方を見ながら呟く。
──まさかお前、そういう趣味か!
顔を赤らめたこの表情は、鏡で最近アルブレヒトがよく見る顔である。
「それより、父さま、そちらのお2人──王太子殿下とヴィオラさまですわね、なにかご用でも?」
──ミドルネームまで教えている!
ばっと振り返ったヴィルヘルムは、遠くを見ながら口笛を吹いていた。
女みたいで恥ずかしいからと普段は名乗らないくせに、呼ばせることまでしている。
アルブレヒトはこの親友がわざわざついてきた理由を悟った。
いつも以上にやる気に満ちていたから、不思議だったのだ。そういうことか。
アルブレヒトはひとり納得して、騎士団長に向き直る。
──その時だった。
「……の、女のくせにッ!!」
声を上げて、後ろを向けたマルティナに、先程マルティナにやられた男が突進してきた。
マルティナが切った木刀の、鋭利な切り口が、マルティナへ迫る。
が、その切っ先はマルティナに届くことがなかった。