小指を立て、その先を指して言った騎士団長に、アルブレヒトは少しだけ目元を緩めた。
 相変わらず、この表情筋はシャルロットの前以外では仕事をしない。

「そうは言ってもですね……」

 そこまで言って、騎士団長はおや、と目を丸くした。目元を緩め、まるで孫を見るような眼差しでアルブレヒトを見る。

「殿下、表情豊かになりましたな」
「でしょう?師匠、アルのやつ、やっとうちの妹と結ばれまして!」
「ヴィル、お前は豊かすぎるな」

 呆れたように騎士団長が言う。
 しかし、ついで、表情を曇らせて、妹ですか、と呟いた。

「師匠、どうしたんですか?」
「ああ、いや、マルティナのことなんだが」

 騎士団長の口にした言葉に、アルブレヒトはゆっくりと目を閉じ、開いた。
大丈夫、冷静だ。
 マルティナ・ティーゼに浅からぬ因縁……とまではいかないが、自分が良い感情を抱いていないのは確かだ。

 あの日シャルロットをぶったことが今もアルブレヒトの怒りを蘇らせる。報復に髪を切らせたのはアルブレヒトだ。さぞや彼女の方も恨んでいるだろう。
 ──と、思っていた。この時までは。

「じぇい!!」