ティーゼ騎士団長は、おおらかな人柄で人望も厚く、だがひとたび剣を振るえば岩ですら真っ二つに断つという剣術の使い手だ。
 細身なのに大剣を使うアルブレヒトに対し、大柄な体の騎士団長は、レイピアを愛用している。

 アルブレヒトにしてみればどうしたらその細い剣で岩を切れるのかと思うが、それがティーゼ侯爵が騎士団長たる所以なのだろう。
 ティーゼ侯爵の人柄を好もしく思っているアルブレヒトとしては、彼が今回のことに関わっていなければいいと思う。

「殿下、お久しぶりですな」
 
 熊のような体をのっしりとこちらに向け、背後に立ったアルブレヒトに気づいて声をかけた騎士団長はさすがだ。
 同じことを思ったのだろう。補佐としてついてきたヴィルヘルムは「流石ですね、師匠」と朗らかに笑った。

「ヴィル、師匠はやめてくれや。早々に習熟したお前に教えられたことなんぞこのくらいだ……と、殿下の前でしたね。失礼しました」
「かしこまらないでくれ、騎士団長。そも、僕も貴殿に師事した1人だ」