──ふいに、波が引くように、人のざわめきが止まった。
 
 その原因はすぐに推し測れる。屋敷の中から、幼い少女が歩いてきたからだ。
 いいや、それだけならこんなにも誰もが口を開けたままでいることはないだろう。

 ──日の光に透けた白銀の髪はふわふわと、少女が歩くたびに風を受けてなびく。幾筋かの黒い髪が流れ落ちるように白い髪を彩り、小ぶりな顔を囲っている。
 吸い込まれるような緑の瞳は、大勢の招待客を見て一瞬戸惑ったように揺れる。
 しかし、後ろを振り返って一拍、そうしてもう一度こちらを見て、はにかんだように細まったのを見て、招待客たちは息を呑んだ。
 薔薇色に染まった頬、アーモンド形の目を縁取る長い睫毛。すべてが精巧で、すべてが完璧で麗しい。
 桃色のドレスには庭の大ぶりなものとと同じ薔薇が飾られており、それがまた少女の美しさを引き立てている。

 後ろに立つヒュントヘン公爵夫妻、そして長兄のヴィルヘルムが誇らしげに微笑む。この日のために留学先から帰ってきた双子の姉姫が自慢げに胸を張った。