アルブレヒトの言葉に、力が抜けた。自分の耳を疑うなんて、ふたつある人生のうちでも初めてだった。
 呆けたシャルロットが、目をただぱちぱちとしばたたいて顔を上げる。

 アルブレヒトは微笑んでいた。目だけが爛々と輝いていて──それが、その熱が、シャルロットを包んで、つい先ほどとは真逆の意味で、心臓が焼けそうに思えた。

「ある、ぶれひと、さま」
「何?シャロ」
「わたし、わたし……」

 シャルロットは言葉を探した。アルブレヒトに、なんといえばいいのかわからない。
 混乱した頭は感情すらあやふやで、うれしいも悲しいも、照れくさいもなにもない。
 ただ──そう、ただ──大きすぎる感情が、シャルロットの胸に去来したのだけは理解できた。

「わたし、あなたを、すきでいて、いいれすか」
「ああ──ああ、シャロ」

 まぶしい眼差しに、シャルロットはまた涙をこぼす。

 アルブレヒトに恋をした。
 ただの犬なのに、主人に持ってはいけない気持ちを抱いた。
 あきらめねばならなかった──それでも、できないから苦しかった。
 捨てられないから泣いたのだ。