優しい声が、シャルロットの耳朶を打つ。
ぼたぼたと涙があふれて落ちて、アルブレヒトの胸元に染みを作る。
ふわりと抱き上げられて、ついで、シャルロットは涙を流したまま目を丸くした。
「けがをするといけないから」
横抱きにされたまま、アルブレヒトの歩いてきたほうへと視線をやる。床の大理石が、足跡を形作るように砕けていた。
「は、はは。お邪魔のようですし、私は用を思い出したので、はは、退出させていただきます」
乾いた笑い声が聞こえる。
音をたてて遠ざかっていく。その足音を聞きながら、シャルロットはアルブレヒトの腕の中で体を丸めていた。
「愛犬」が嫌なのだと、聞かれていたかもしれない。それが急に怖くなった。
「シャロ、泣いているの……?」
いやだ、一緒にいてもいいのは、シャルロットがアルブレヒトの犬だからだ。
その権利まで奪われたらシャルロットはどうなってしまうだろう。
「お願いだ、シャロ。泣いてもいいから、ひとりで泣かないで。僕は、シャルロットが泣いていることが、世界で二番目に辛い」
アルブレヒトは続けた。
「そして、君を失うことは、世界で一番つらいことだ」
だから話してほしい。懇願のような響きだった。
アルブレヒトは何も悪くない、悪くないのに、そんな声をだしてシャルロットにおもねる必要なんかないのに──。
シャルロットは、だから、だから、もうこれ以上をアルブレヒトから差し出させたくなくて、だから……。