「何を……」
「いいえ、「愛犬」とは言いますが、存外忠誠心の低いものだと思いましてね。どうです、子犬の姫君。私の──」
「──何をしている。クロヴィス・ティーゼ」

 なにか固いものが砕ける音がした。そうしてはっと声のしたほうを見ると、そこにはアルブレヒトがいた。
 シャルロットの、見たことのない顔をして。

「ヒッ……こ、これは、殿下」
「僕の、シャロに、何をしていた」

 短く切って発せられた言葉が、クロヴィスの体を串刺しにしている、そういう幻覚が見えそうですらあった。薄暗い目──いいや、もう光など宿しておらぬその青い目からは、鈍色の感情が漏れ出しているようで──殺意だと、シャルロットは思った。

「あるぶれひと、さま」

 クロヴィスの手を振り払う。わずかな距離を駆け抜けて、跳びこんだ腕に、ぎゅうと抱きとめられる。
 腕の中に戻ってやっと肺に届いた空気に、シャルロットはようやく息ができたと思った。

「シャロ」
「アルブレヒトさまぁ……」