「ごめんなさい、お姉さまたち。少しだけ、ほんの少しだけ席をはずしてもいい?」
「もちろんよシャルロット」
「けれど無理はしないでね、シャルロット」

 目もとを赤くしたシャルロットを気遣って、姉たちがそういう。
 気にしないでというように紅茶を口に含んだクリスティーネ、クッキーに手を伸ばしたアレクシア。
 ふらふらとした足取りでドアを開けるシャルロットを見て、そうして──気付いて言った。

「シャルロット、侍女は?」
「外に、いるから」
「そう、そうなの?シャルロット。いなければすぐにお姉さまたちを呼んでね」

 嘘だった。家族に嘘をついたのは初めてだ。
 お茶会の時、家族団欒だといって席を外してもらった侍女たちは、今はすぐ近くにはいない。
 あの時恋を知らなかった、無邪気なシャルロットがそう頼んだからだ。

 ふらり、ふらり。衛兵のいる場所は覚えていた。シャルロットはもう10年以上もここに住んでいる。
 夢見るような足取りで、アルブレヒトがアーモンドの花を挿してくれた中庭へ歩を進める。
 薄紅色の花が風に揺れ、時折花びらが舞い散る。
 思わず手を伸ばしたシャルロットの指をすり抜けて、遠くの花壇に落ちていく花びら。

「おかしいの、息がとってもし辛くて」