春。この日のために整えられた庭には、ヒュントヘン家の小さな子犬姫であるところのシャルロットお嬢様を敬愛する庭師が、丹精込めて育て上げた薔薇の花が咲き乱れている。

 涼しい風に乗ってかすかに香るように配置された大ぶりな薔薇は、シャルロットのために生み出された品種だというから、この家のものがどれだけ小さな姫君を愛しているのかがわかろうというもので。

 そのそばにはシャルロットの兄姉たちの名をつけられた、紫だったり桃色だったりと色彩豊かな薔薇がシャルロットの白い薔薇を囲うように植わっている。ならば、その周囲をささやかに引き立てるローズマリーの緑は、さしずめ使用人たちだろうか。

 白に染めた布を惜しげもなくつかった日傘がまぶしい太陽を心地よくさえぎって、薔薇の華やかな香りと、涼し気なハーブの香りが招待客を楽しませた。

「いやあ、ヒュントヘン公爵家の庭は見事だという話でしたが、実際に見てみると想像以上で驚くばかりですなあ」
「ええ。ええ。香りもいいですが、あの花々の見事なこと!私なら薔薇のアーチなどと安直にやってしまいますが、ここはずっといたくなるような心地よさですね」
「しつらえがいいとはこういうことをいうのでしょうなあ。なんでも、子犬姫の誕生日だからと姉君が庭師と考えたのだとか」
「いやはや、ヒュントヘンには才媛ばかり生まれる、あやかりたいものです」

 用意された冷たいハーブティーは、菫の色をして、談笑する紳士たちの喉をまろやかに潤している。これも、外国から取り寄せた希少なハーブのお茶だという。

「このお茶もまた良いものです。レモンシロップを入れると、これこのように」
「おお、色が変わるのですな。面白い」

 そうやって楽し気に話す男性陣とは反対側の、軽食が並べられているスペースでは、華やかに着飾った令嬢やその母親たちが、用意された目にも楽しい菓子にはしゃいでいる。

 たっぷりの生クリームを使ったトルテには、春らしく大ぶりの苺が飾られてつやつやとしている。