アルブレヒトの手からインクのにおいがする。仕事を急いで終わらせてきたんだ。シャルロットの視線に気づいて、アルブレヒトはそう言って苦笑した。

「シャロはいつだって僕のことがわかるんだね」
「インクのにおいがしたんですもの」

 特別なことではないのだとシャルロットははにかんだが、今日はなぜか、アルブレヒトはその続きを求めている気がして、不思議に思って、アルブレヒトの手に自身のそれを伸ばした。

「汚れてしまうよ」
「なら、わたしが綺麗にします。アデーレ、お水はあるかしら」
「お任せください、おひいさま」

 侍女のアデーレがはりきって答え、踵を返した。ほかの侍女は残っているから、きっとアデーレ自身が用意してくれるのだろう。
 それをありがたく思って微笑んだシャルロットは、アルブレヒトを見上げた。

「アーモンドの花、きれいですね」
「そうだね、シャロにもとても似合う」
「わたし、全体的に、色が薄いですもの……。アルブレヒトさまのほうがお似合いになりますわ」

 アーモンドのピンクの花と、アルブレヒトの黒髪が合わさるところを想像したシャルロットは、なんて素敵なんだろうと頬を紅潮させた。

「シャルロットのほうがずっと似合うよ」