あの少年に会いたい。会いたい。そう思って、でも彼が誰なのか全然わからない。
 考えれば考えるほど、沼に沈んでいくような気持ちになる。会いたい気持ちだけが急いて、勢いだけがから回っていく。

 急に不安になって、シャルロットは母の胸に顔を埋めた。花のような香りがふんわりと鼻腔を撫でる。
 とくん、とくん、とくん。心臓の音は好きだ。安心するから。いつかずっと昔も、こうやって誰かに抱かれていた、よ、うな──。

「……お父さま、シャルは、会いたい人がいるのよ」
「お友達ができたのかい?」

 父の質問に、瞼の重くなってしまったシャルロットは、むにゃむにゃとまどろみ始める。
 そろそろ昼寝の時間だった。

「んー……んん……」
「おねむかしら?シャルロット」

 母が優しく背をたたいてくれる。そのリズムが心地よくて、考えつかれたシャルロットはまどろみの中に沈んでいった。
 明日、何が起こるか。
 シャルロットは、人生を一変させる恋の始まりがあるなんて、このときは思いもしなかったのだ。