その日は雨が降っていた。
 雨に濡れたからだろうか。わたしの体は底冷えするように冷たくて、同時に、だんだん動かなくなっていくのを感じて。
 寒いから、あたためてほしい。そう思うより少し前に、大好きなひとがわたしを掬い上げてくれた。
 両腕にわたしのちいさな体を抱えて、彼は雨を降らす。あたたかい雫が、わたしに当たると急に氷みたいに冷たくなる。
 変なの。眠くないのに、瞼が落ちていくのをとめられない。
 
 彼の、ひなたぼっこしているときのような匂いに包まれているのに、どうしても鼻をつんとつくのは、甘いような、生臭いような、変なにおいだった。
 この臭いは好きじゃない。「ご主人様」の匂いを嗅いでいたい。