一瞬あられもない妄想が脳裏をよぎり、はっとして慌ててそれを掻き消した。変に意識しちゃうからダメだって。

 脳内が騒がしくなりだした時、二歳くらいの男の子が細かくちぎった折り紙を床にばら撒き、楽しそうに声をあげた。その子のママが「ちょっとちょっと!」と慌てて拾っている様子を見て、誠一さん共々苦笑する。

「子供は癒やされるけど、掃除はいつも以上に大変だよな」
「あはは、確かに。やりがいがあります」

 親子のもとへ動き出そうとすると、誠一さんは私の頭をぽんと軽く撫で、「頑張って。また後で」と声をかけて別の場所へ向かっていった。自然に触れてくれる手も、約束をしていなくても〝また後で〟会えるのも嬉しい。

 元気がチャージされた気分で、男の子のママと一緒に紙くずを拾って常備しているゴミ袋に入れた直後。

「きゃあ、すみません!」

 今度はまた別の場所からざわめきが聞こえてきたので振り返ると、女性が誰かに向かって必死に謝っている。これまた小さな女の子がジュースをこぼし、どうやらその人の足元にかかってしまったらしい。