目を見張ってこちらを見つめていた誠一さんは、ふいにやや俯いて口元を手の甲で隠した。私が変な発言をしたかな?と、若干不安になって顔を覗き込む。

「誠一さん?」
「……ありがとう。芽衣子と結婚してよかったって、今すごく感じた」

 聞こえてきたのは、私の心までも満たすような穏やかな声。彼の表情もさっきとは違い、強張りが解けたみたいに柔らかくなっている。

 次の瞬間、肩に手を回されたかと思うとぐっと引き寄せられ、思わず「えっ」と声が漏れた。髪に彼の唇が触れたように感じ、心臓が飛び跳ねる。

 頭を撫でられたり手を繋いだり、というスキンシップはたまにあったけれど、こうやって抱かれるのは慣れていない。目を見開いてどぎまぎしていると、誠一さんは真面目な口調で話し出す。

「仕方なく跡を継ぐっていう感覚がどうしても拭いきれなくて、俺はなんのために社長をやるのか、その意味をずっと考えてた。でも今、〝これだ〟って思う答えをやっと見つけられた気がする。君のおかげだ」

 顔を上げた私にまっすぐ向けられた凛々しい笑みは王様さながらに気高く、自信を取り戻したように感じた。少しでも役立てたなら、こんなに喜ばしいことはない。