「私は、誠一さんのカッコいいところだけ見ていたいわけじゃありません。カッコ悪くて弱い部分も、全部見せてほしいです」

 まっすぐ見つめて力強く言うと、伏せられていた彼の瞳が私を捉えた。

「好きなことをやめるんですから、いろんな葛藤があって当然ですよ。でも社長になって経営を回復させるのは、日本アビエーションで働くすべての人を守ることに繋がりますよね。皆がいるから飛行機が飛ばせて、お客さんを目的地まで連れていってあげられる。誠一さんがこれからやろうとしていることも、つまるところ全部お客さんのためじゃないですか」

 誠一さんは会社も社員も、皆を救おうとしている。目標が大きすぎるあまり気づけなくなっているかもしれないけれど、その延長線上に大切なものはちゃんとあると、私は思う。

 それが伝わったのか、覇気が弱くなっていた目がはっとしたように大きく開いた。彼を安心させたくて、ふわりと微笑みかける。

「大丈夫です。誠一さんの中には、空が好きな気持ちも、人を思いやる心もちゃんとありますから。忘れそうになったら私が思い出させてあげますよ、いくらでも」

 これまで私にかけてくれた言葉や、飛行機でのアナウンス、それに詰まっていたあなたの思いやりはきっと消えはしないと、何度でも話してあげたい。