彼女はこれまでの厳しさを和らげ、さっぱりとした調子で話を続ける。

「今は旦那が会長をやってるけど、正直この人は器用なほうじゃないの。私と誠一が陰で経営に口出ししてなかったら、今頃破産してる会社がいっぱいあるわ」
「辛口だな~」

 ざっくばらんな物言いをするお母様に、お父様は苦笑いしながらぽりぽりと頭を掻いた。お父様って、意外にも尻に敷かれるタイプ?
 お母様の率直な言葉はまだ止まらない。

「あなたはいい人すぎるのよ。上に立つ人間は、時には冷酷な決断もしなければいけないのに、なかなか切り捨てられない性格なのよね。日本アビエーションの経営が悪化してるのは主に国際情勢のせいだけど、今の社長を信頼して任せた結果、失敗してしまったことも多々あるの」

「あの社長も頑張ってるんだがなぁ」

「まあ、あなたがそういう優しい人だから今も一緒にいるんだけど」

 しょぼんとしていたお父様は、付け足された愛のある言葉に反応し、感動したようにお母様を見つめる。

「さっちゃん……」
「だから、よっぽど誠一のほうが要領もいいし優秀だと思うの。早く社長を代わってほしかったから、誠一をその気にさせてくれた芽衣子さんには感謝してるのよ。会長としての器も、旦那よりずっと大きいと思うわ」
「あ、ちょっとヘコむ」