「誠一の母です。どうぞ、お座りになって」

 涼しげな目元が笑っていないのがわかって、すでに手厳しさを感じる。口の端を引きつらせないよう気をつけながら、「失礼します」と微笑んだ。

 カウンターもついているアイランドキッチンにはシェフが立っていて、レストランと同じクオリティの料理が次々と運ばれてくる。自宅でこんな食事ができるなんて、私にとってはまるでファンタジーの世界だ。

 さっそく食事会が始まり、しばらく私への質問が続いていたけれど、答えに困るものはなかった。お父様がずっとニコニコしていて本当に穏やかな方なので、おかげでいくらか緊張も解れてきている。

 しかし、そう簡単にいかせてくれないのがお母様だ。話が途切れたところで、試すような瞳で誠一さんを見つめて問いかける。

「あなたがこれまでお見合い話を断ってきたのは、芽衣子さんがいたからだったのかしら。なぜ早く言わなかったの?」
「俺の片想いだったからだよ。彼女はずっと家柄の違いから遠慮していて、最近ようやく折れてくれたところなんだ」

 まったく動揺せずに出まかせで答えた彼は、凛とした表情でふたりを見つめ返す。

「近いうちに父さんの跡を継ぐ。だからせめて、愛する人と結婚させてほしい」