確かに、付き合っている設定なのだし、これから同じ苗字になるのだから慣れないといけない。彼の名前は誠一さんだったよね、と頭の中で確認して口を開く。

「そうですね。せ、せいぅ……ちさん」
「俺はセイウチじゃない」
「すみませんっ!」

 思いっきり噛んでしまい、すぐさまツッコまれて平謝りした。おかしそうに肩を揺らす彼につられて、私も笑ってしまう。

「今のはナシです。……誠一さん」

 妙な緊張感があるなと思いながらリベンジして、今度はしっかり呼んだ。彼は満足げな様子でこちらに片手を伸ばし、「よくできました」と頭をぽんぽんと撫でる。

 名前で呼び合ったり、少し触れられたりするだけで胸がキュンとする。相手が誠一さんじゃなくてもこうなるものなのかなとぼんやり考えてみたけれど、答えは出せなかった。

 そうしているうちに到着したのだが、豪邸が見えたのは敷地の中を車でしばらく走ってからだった。

 緑が美しい庭園を抜けて現れたのは、もはや豪邸というより宮殿。誠一さんの家はハイセンスな美術館といった感じだが、こちらは中性ヨーロッパを彷彿とさせる造りだ。