万が一羽澄さんのご両親に反対された場合も、『もう君の部屋も用意してある。ひとりにするわけないだろ』と言われ、心の奥が温かくなった。 同居も第二の試練だが、まずはなんの粗相もなく〝彼の大切な女性〟を演じなければ。

 服装から困ってしまったので、羽澄さんと一緒にデートがてら選びに行った。上品にレースが施された清楚なワンピースに決めたのだが、目が飛び出るような金額のそれも彼がためらいなく支払ってくれて、やっぱり格差を感じずにはいられなかった。

 そうして迎えた当日、四月半ばの土曜日に、文京区にある羽澄家へと向かう。

 羽澄さんの愛車は、洗練されたデザインの黒いSUV。車を運転する彼を見るのは初めてで、きりりとした横顔やハンドルさばきが当然ながらカッコよかったものの、緊張で見惚れてばかりはいられない。

 挨拶を失敗しないよう頭の中でシミュレーションしていると、羽澄さんは思い出したように口を開く。

「父さんたちに会う前に、練習しておいたほうがいいか」
「練習?」

 首をかしげて運転席を見やると、彼は私に流し目を向けて口角を上げる。

「これからは名前で呼んで。芽衣子」

 ふいうちで呼び捨てにされ、心臓が飛び跳ねた。