結婚すると決めた途端、私の生活はめまぐるしく変わり始めた。

 シドニーから帰国した羽澄さんと約束通り会うと、さっそく引っ越しの段取りをつけ、彼のご両親に挨拶する日を決めた。無事認めてもらえたらすぐに入籍し、会社にも報告する。

 結婚式は、落ち着いたら親族と日本アビエーションの重役だけで小さな披露宴を行うらしい。会社が大変な時なので皆に余計なお金を使わせたくないという、羽澄さんの気遣いで。

 私には『あまり豪華にできなくてすまない』と謝ってくれたが、提案された式場も規模も、私が想像する一般的な式を優に超えていて、彼が言う〝豪華〟はレベルがまったく違っていた。私からすると、 ドレスを着られるだけで十分すぎるほどなのに。

 というわけで、私の最初の試練はご両親へのご挨拶となった。契約婚というのは内緒で、羽澄さんが『結婚したい大切な人ができた』とすでに話してあるそう。

 この日までに家の片づけはほぼ終わり、荷物もある程度羽澄さんの家に運び込んでいる。

 彼の住処は東京の一等地にある一戸建てで、ひとり暮らしをしていたとは到底思えない豪邸だ。他の住人を気にせず静かに暮らしたくてマンションはやめたそうだが、何百坪もある家をためらいなく購入できるのだから、開いた口が塞がらない。