《ディランが〝誠一なら信頼できる〟って言いきってるし。私としては、めいをひとりにさせない男の人がいてくれるなら安心だから、結婚は賛成だよ》

 しばらく悩んでいた私も、梨衣子がそう言ってくれたことと、郁代さんと話したこともあって気持ちが前向きに変わり、結婚するほうに傾いている。

 自分に自信はまだないけれど、羽澄さんといると胸が躍るし、もらってばかりじゃなく私もなにかしてあげたいと思うのは確か。郁代さんが言ったように、この縁を大切にしたらいい未来に繋がるんじゃないかと漠然と感じるようになった。

 ただ、私が結婚したらこのアパートを出なくてはいけない。 オンボロアパートだけれど、母と梨衣子、三人で過ごした思い出が詰まった場所だから引き払うのはとても寂しい。それに、梨衣子が帰ってきた時に迎えてあげられなくなる。

『このアパートを出たら、梨衣子が帰る場所がなくなっちゃうね……』

 ぽつりとこぼすと、彼女は意外にも軽く笑い飛ばした。

《寂しくないって言ったら嘘になるけど、芽衣ちゃんにずっとそこにいてほしいとも思わないから。帰る場所がなくなるんじゃなくて、芽衣ちゃんが新しい居場所を作るんだよ》

 新しい居場所を作る──その言葉が胸に響いて、覚悟を決められた気がした。それが私の、これからの目標になるかもしれない。