「ありがとうございます、郁代さん。なんかお母さんを思い出しました」
「私そんな年じゃないんだけど!?」

 片眉を上げてちょっぴり不服そうな顔をする彼女に、私はあっけらかんと笑った。

 郁代さんのおかげで、毎日明るく楽しく過ごせている。きっと彼女ともそのために出会ったのだろう。生活は貧しくても人には恵まれているのだと実感して、その人たちに感謝したくなった。


 翌日の午後九時。四日間の勤務を終えて帰宅した私は、簡単に夕飯を済ませた後、湯船に浸かりながら昼間にした梨衣子との電話を思い返していた。

 バンクーバーとの時差は十六時間もあり、私の休憩時間がちょうどいいのでこのタイミングで時々電話している。向こうは夜で、梨衣子は軽くお酒を飲んでいるようだった。

 羽澄さんに契約結婚を持ちかけられた話はすでにしている。やっぱり真っ先に相談するのは梨衣子だから。

 最初は当然ながら驚愕していたけれど、《ふたりにはなにか起こると思ってたよ〜》と、稀な出会い方をした件があるのでまったく予想していないわけではなさそうだった。