物思いに耽りつつご飯をもそもそと口へ運ぶ私に、郁代さんはお茶を飲んでから諭すように言う。

「〝これもなにかの縁だ〟ってよく言うでしょ。人との出会いにはなにかしらの意味があるんだって。彼に会って、芽衣子ちゃんもなにか得たものはない? 新しい気持ちとか、発見とか」

 そう言われて、私は手を止めた。

 羽澄さんからもらったものは、ひとつやふたつではない。そのどれもが、お金では買えないし目にも見えない、私の胸の中にだけある大切なものだ。

「……あります。たくさん」
「じゃあ、芽衣子ちゃんはそのために彼と出会ったんだね」

 郁代さんの穏やかな声が、心の中にすうっと入ってきた。

 ただの偶然だと思っていたものが、もっと大きな意味を持っているように感じてくる。それは彼にとっても同じなんだろうか。平凡な私にも、彼にあげられるものがあるのかな。

「彼への感謝の気持ちがあるなら、恩を返すつもりで接してみたら? そのうち彼との差も気にならなくなるかもしれないし、なによりご縁を大事にすると自分の幸せに繋がってくるものだからさ」

 にこりと微笑まれ、なんとなく懐かしい気持ちが込み上げてくる。『大切にしてくれる人、大切にしたい人に優しくして、尽くしなさい』と言っていた私の母も、生きていたら郁代さんと似たようなアドバイスをしてくれそうだ。